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札幌高等裁判所 昭和30年(う)438号 判決

控訴人 被告人 岡本幸一こと三浦勇夫

弁護人 岩沢誠

検察官 栗坂諭

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中三十日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岩沢誠提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右控訴趣意第一点(法令の適用の誤)について

原判決書中法令適用の項を仔細に検討すると、原判決は、まず被告人の原判示所為中住居侵入の点につき刑法第百三十条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号を、窃盗未遂の点につき刑法第二百三十五条、第二百四十三条を、窃盗の点につき同法第二百三十五条を各適用し、つぎに同法第五十四条第一項後段、第十条を適用して罪数を明にし、進んで同法第五十六条第一項、第五十九条、第五十七条を適用して累犯加重をなし、しかる後同法第四十五条前段、第四十七条本文、第十条、第十四条を適用して併合罪による法定加重をしていることが認められる。窃盗未遂の所為についてのみ累犯加重しその他の窃盗既遂の所為について累犯加重をなしていないとはいえない。従つて原判決には所論にいう刑法第七十二条に違反して法令の適用を誤つた違法ありとはいえない。論旨は理由がない。

同第二点(判決に理由を付さない違法)について

訴訟費用は、原則として刑の言渡の場合その全部又は一部が被告人の負担とされ、その旨が判決主文において表示されるが、これを免除した場合は、主文において訴訟費用の負担を遺脱したのではないかと見られる虞の生ずるのを避けるため、判決理由中にその旨を説示しておくことが望ましいのではあるが、もともと、判決理由においては、主文において表示された事項のよつて来る所以を説示すれば足りることに鑑み、右免除が相当と認められるかぎり、たとい、理由中にその旨の説示がないからといつて、直ちに以て判決に理由を付さない違法があるとは解されない。これを本件記録に徴し、その審理の経過および結果から判断するに、本件にあつては、被告人が貧困であつて訴訟費用を納付することのできないことが明らかである場合に該当するので、原判決が刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用して被告人に本件訴訟費用を負担させないこととしたことを優に認めることができるから訴訟費用免除の説明がないからといつて、前説示に照し原判決に所論のような違法があるとはいえない。論旨は理由がない。

同第三点(不法に管轄を認めた違法)について

しかし、原判決が認定したのは、その管轄権を有する窃盗、同未遂ならびに住居侵入の各被告事件であること本件記録に徴して明らかであるから、たとい、被告人の本件各所為がすべて夜間人の住居又は人の看守する邸宅に侵入して犯したものであつたとしても、これを以て直ちに「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」第二条第四号に該当する被告事件とは解されないから、原判決には不法に管轄を認めた違法はなく、論旨は理由がない。

同第四点(公訴を不法に受理し審判した違法)および第五点(法令の解釈適用の誤)について

所論は、要するに本件被告事件が前記法条にいう常習窃盗に該当するものとして原判決を論難するにあるが、同法条の罪の成立要件としての常習性は、本件記録を精査するも、にわかにこれを認め得られないだけでなく、かりに常習性ありとしても、おおよそ、控訴の趣旨とするところは、被告人の利益のためになさるべきであるから、本件のように、控訴の結果却つて被告人に不利益を招来するが如き所論は、到底採用し得ない。論旨は理由がない。

同第六点(量刑不当)について

本件記録ならびに原裁判所で取調べた証拠により認められる本件犯行の動機、態様、回数、被害の程度、被告人の前科の経歴その他諸般の事情を総合すると、所論を考慮に容れても、原判決が被告人を懲役二年六月の実刑に処したのは相当であつて、その量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、刑法第二十一条に従い当審における未決勾留日数中三十日を原判決の本刑に算入し、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書に則り当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

弁護人岩沢誠の控訴趣意

第二点原判決は、判決に理由を附さない違法がある。

原審は国選弁護人を附して本件の審判をなしたこと一件記録上明らかなところである。しかして国選弁護人に給すべき日当、旅費、宿泊料及び報酬は訴訟費用であること刑事訴訟費用法第一条第三号に明定され国選弁護人はこの支給を要求していること、亦一件記録上明らかなところである。しかして刑の言渡をしたときは被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させるのが原則であるし、法第一八五条によれば裁判によつて訴訟手続が終了する場合において、被告人に訴訟費用を負担させるときは、その裁判をしなければならないから、原判決が主文において訴訟費用の点に一言も触れていないところからみれば、右の法意に照し被告人に対しては訴訟費用免脱の言渡しがあつたことを窺われるのであるところ、判決理由中には如何なる理由で被告人に対し訴訟費用を免れしめるものであるかについて、何ら説明するところがない。とすれば、主文の由つて来るところの理由を附していないことに帰し刑訴法第三百七十八条第四号前段に該当し、右判決は違法に帰するのであるから破棄を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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